XI
実はこの頃が初期段階だと誰一人も覚えていない。



「だいたい、魔王が誘拐ってなんなのよ!!」
「お前、召還だと何度言えば納得する?」
「わたしを喚ばなければ!!」
「それはないな」
「ないじゃなーい!」
「無理だな」
「むりじゃなーい!」
「なしだ」
「なしじゃなーい!」
「却下だ」
「却下すなー!」
「さっきから否定ばかりだな、たまには肯定したらどうだ?」
「ふざけんなぁー!」
「そうか、ここにいるのは嫌なんだろう?」
「嫌じゃない!」
 てん、てん、てんてん………
 ※注 この場の空気。
「っぎゃぁぁぁああーーーー!」
「そうか」と言って消えた魔王様の後に残されたのは、耳をつんざく絶叫だった。



「人の揚げ足を取るんじゃないわよ!!」
 あれから数分、魔王様の執務室にの机にバンっ! と手を突いた彼女が叫びます。余談ですが、叩きつけた手のひらが痛いのかさすってます。
「なんのことだ?」
 そして、書類の山がばさばさばさーっと容赦なく床に落ちたにも関わらずにこにこと笑顔の魔王様。楽しそうです。
「あんたの存在よ!!」
「はてはて、……そうか存在価値を示せと言うことか」
「へ?」
 彼女が会話について行けない間、魔王様は言います。
「ちょうどいい、この機会だ、おまえ達」
 ちょいちょいと、執務室の片側で仕事をしている魔界三人衆を呼び寄せる魔王様。そして一言。

「死ね」

「まじっすかー」
「短い生涯だな」
「魔王様、彼女、固まってますよ」
「なに?」
「どういう思考回路してんのよ!!」
「ぁあ、断っておくが魔界の住人がただで死ぬと思うなよ」
「なに!?」
「そりゃもちろん、死んだのはお前のせいだと呪われるだろう?」
「疑問!?」
「もちろん呪いますし」
「当然祟ります」
「って言うか人を死に追いやっておいて生き残れると思うなよ?」
「腐っても魔界人ーー!!」
「当たり前だろう。ほらほら、納得しろ」
「何に!?」
「魔王の存在価値に」
「会話が成り立たないーーー!」



「走って逃げたな」
「かなり不本意なはずですよ」
「そうか?」
「そうですよ魔王様」
「涙が切れ切れなんですよ」
「誰に奴当たるんだ?」

「悔しいからか?」

 魔界三人衆の言葉に、魔王様は一言返しました。
 ため息をついた三人衆。デューが答えました。
「そこまでわかっていてやっているんですね」
「何を言う」



「は! 迷った!?」
 この城、でかすぎ、ひろすぎ、ありえなすぎ。がっくりと肩を落とした彼女の後ろから、声が近づきます。
「さて、どこかに迷子がいるはずなのだが……」
「ざけんじゃないわぁよぉぉぉおお!」
「その迷子を昼食の場所まで案内しようかと思っていたのだが、ここにはいな」
「きこえないしらない存在しないーーー!」
 彼女は、走り去った。
「やれやれ、遊び足らないらしい」
 ………そうか?



「まいた、消えた、存在しなくなった?」
「その疑問符は取れることないな」
「ストーカー!!」
「なんだそれは、俗語か?」
「現代語よ!!」
「ここは魔界だな」
「聞いてない!!」
「まだ遊び足りないのか?」
「この変態ーー」
「なにを言う。ーーそろそろ昼飯が冷める頃か、まぁ私は、一食、十食食べなくてもまったく問題ないのだが」
「あるわぁ!」
「まぁ変態は消えるとしよう」
「いやーー!」
「ずいぶん肯定的だな」
「手のひらの上!?」



 数分後、魔界の真っ黒な空の下で見る限りはほほえましいと言えるであろう昼食風景があった。
 例えテーブルと椅子が真っ黒で、例えパラソルも真っ黒で、並ぶ食器類も真っ黒で、例え会話にストーカーだの、変態だの、誘拐犯などと単語が組み込まれていていたとしても。
 お昼はフライフィッシュのサンドウィッチだった。ついでにスープは冷製だった。冷めっぱなしだ。

「おいしかったけど!」
「なぜ足を踏」
「スープ冷めてんじゃない!!」
「冷製だからな。冷たく冷やしてあるからこそおいしいんだぞ」
「いらつくーー!!!」
「痛いだろう」
 よいしょっと、彼女を抱え上げる魔王様。
「ぎゃーーおろせぇーー」
「耳元で叫ぶな」
「おーーろぉーーーせぇーーーー!!」
「耳が……」



「しかし魔王様、大好きですね」
 窓の外から叫び声が聞こえてくる。
「あの人間が?」
「そうですよ」
「そうですね」
「魔王の城に人間がいるなんて、笑い話も良い所じゃないか?」
「同感です」
「それはそうですけどーでもー」
「なんだ」「なんです」
「彼女が来てから、城が半壊したり、バラバラ死体が転がっていたり、牛が飛んできたり、書類が切り刻まれたり、山が火山になったり、灰が降ってきたり、廊下が陥没したり、罠にはまったり、いらだち紛れに半分殺されかけたりしませんよね」
「「……」」
 センドールの言葉に、しばらく、デューとレイスは沈黙した。またしばらくして、レイスは何かを悟ったかのように口を開いた。
「いんじゃないか、魔王城に人間がいても」
「同感です」



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