その予告状は、たくさんの祝いの手紙の中に埋もれていた――



愛(哀)の逃避行?




 たくさんの花々と、祝いを告げる鐘がなる。
 人々の喜びの声と、笑顔。

 神々の祝福。

 二つの国の二つの影が、ゆったりと大聖堂の中、教主の前に向かう。

 左右には両国の国王。
 町を溢れて、祝いに来た人々がにぎわいだす。

さぁぁぁ――

 新郎と新婦が大聖堂で誓いを交わす――その前がチャンスだ。


 馬車から人が降りてくる。寄り添い会って歩く影。

 セティアの王子ゼルド、アレンの王女ミリアーノ。

「緊張していらっしゃいますか?」
「――少し」
 か細い声が震えていて、本当に、これまで城も出ていなかったのだと思う。
「大丈夫ですよ」
 王子の笑顔は、まるで仮面のようだった。
「王子、さま?」
 ベールの下の王女の瞳が、不思議そうに揺れた。
 でもそれは、王子の笑顔と、人々の叫びにかき消された。

「あれは!!?」

 一機の飛行機、いやあれは個人の小型の物であり、しかも二人乗りのようだ。

「何をしている!!」
 まっすぐ、大聖堂に向かっている。
「そこの飛行機! 止まりなさい!!」
 どうやって、あの包囲網を潜り抜けたのだろうか。
 確かに、今日は祝い事に浮き足立っている者が多くいたはずだが。

「――打ち落とせ!!」

 真っ直ぐに向かっている先がこれから式を挙げる二人だ、と人々が気がついた時には、もう遅い。


「な、なんですの?」
 怯えてしがみ付く王女を余所に、王子の唇が動く。
 “ようやく、来たか。”
「さようなら、王女様。あなたには、もっと相応しい相手が見つかるでしょうから」
「――え?」

「打ち落とせ!!」
 早く高く銃器類が発砲する。しかし、いったい乗り手の技術がすごすぎるのか、浮き足立った兵士の腕が悪いのか――前者だ。
 降りしきる銃弾の雨をくぐって、飛行機は二人の主役に近づく。

「お幸せに」
「――っ」

 もう何も言えない。

「!!!?」

 人々が驚愕に声を失う。

 風のように飛んできた飛行機から伸ばされた手。
 王子の姿が消えていることに、人々はすぐには気がつけなかった。


 急上昇した飛行機が南に向かう。


 どうやったのか、伸びてきた手をつかんで、次の瞬間には二人乗りの飛行機の後部座席に座っていた。

「くっ……くくく……」
 突然笑い出した王子。それはもう、腹を抱えて笑っている。
 音で表現するなら「あーーはっはっは!!」ぐらいか。

「――笑いすぎよ」
 比べて、幾分不機嫌な声。
「ったくどこの国に、怪盗に自分を盗んでくれって頼む王子がいるのよ」
「ここにいるだろ」
「そーね」
 飛行機の操縦席で、ヘルメットに髪をしまい、ゴーグルで瞳を隠した――声からすれば女だ。がぼやく。
「きちんと前取りは払っただろう? しかし、まさかこうくるとはな」
 まだ笑いが収まらない王子が、笑いながら言う。

「――来たわ」
「?」
 振り返れば、国の空軍の軍団。一糸乱れぬ姿で、全速力で飛んでいる。
 その飛行機から飛んできた銃弾。
「ぅお!?」
 王子の真横、目の前を通り過ぎる。
「威嚇(いかく)射撃よ。どうせ、王子を殺すわけにはいかないんでしょうね」
 女は、にやりと笑った。
「しっかりつかまって。それから、足下にある危機には触らないこと。触ったら落とすから」
 女が笑っているのは、盗みに成功したから、ではない。
 これから振り切ったこの国の空軍の悔しがる様を想像して笑っている。
「さぁ、いくわよ」
 右に向かった飛行機が宙を回転した。





「おい……」
「何?」
「どこまで行くんだ?」
「何? もうギブアップ? 情けないわねーー」
 そりゃそうだろう。と、王子は言えなかった。
 なんたって、あの空軍を撒くために……谷のすれすれを飛び、急降下、急上昇。回る回る。雲に突っ込み、海面すれすれを飛び。
 後ろで、正面衝突した軍の飛行機がどうなったか、考えたくもない。

「もうすぐよ」
「――?」
 王子がいい加減ぐったりしてきた時、視界が開けた。

「あれ、は――?」
「下りるわよ」
「ぅわ!?」
 王子の声が裏返った。




「きたな」
 風を切る音に、男が空を見上げる。この芝の上に飛行機を止める事など、彼女には造作もない。

 予想通り、あっさりと着地した飛行機から女とこの国の王子が降りてくる。

「ルナ」
「セズ!」
 ヘルメットを脱いだ怪盗が――飛行機が止まったすぐ傍に……下にいた男は飛行機のプロペラや機体があたる場所にはいなかった。それは女の操縦の腕の賜物だろうが、普通、着陸する飛行機のあんなにもすぐ傍にもいられるものだろうか?
 と、その怪盗と男が抱き合っている。というか、女怪盗が飛びついた?

 どことなく目のやり場に困っていると……男と目があった。――哀れみの目で笑われた。
 いつも、それをやっている側のだけに、その不敵な笑みに神経を逆なでされた。

 他人を嘲笑するのは、自分の特権だ――

「おい!」
「何よ、城出王子」
「なんだ、家出か」
「……」
 王子は、普通ならあしらえるはずの言葉であったにも関わらず、一瞬押し黙った。
 おそらく、“この二人には逆らってはいけない”という“世界の常識(?)”を察したんだろう。と思う。
「――って違うだろ!」
「何一人でしゃべってるの?」
「おそらく、今頃になって後悔しているだろう。行こうか」
「そうね」
「おい待て!」
 いつの間にか飛行機を積み込んだ車に乗り込む二人を、追う王子。
「置いていくな!!」
「なんでだ」
「あ、まだ残りの取り分もらってないわ」
「しかたない、乗れ」
「……ここに!!?」
 (外)。
「当然でしょう」
「当然だろう」
「〜〜〜」
「で、どこに行くの?」
「君の行きたい所に……」
 王子に向かっていった言葉の鋭さは微塵(みじん)もない。極限まで砂糖で作られた菓子のように甘い声。

 人々はこう言うことだろう。「ぅわあ、らぶらぶだーー」そして近づかない。触らぬ神に祟りなし、人の恋路は邪魔しない。馬ならぬ二人に殺される。

 がしかし、この王子。頭はよくても無鉄砲。
「ジェックの町だ!!!」
「……お前に聞いていない」
 一瞬、本気の殺気が湧いた。ルナ一人が涼しい顔で、王子は凍りついた。
「じゃ、そこで」
「OK、ルナ」
 一瞬にして春になった。
「よろしく」
「……」
 もうどうにでもしてくれ……




 さて、目的地に着きました。
 ぇえもう、王子様が砂を通り越して砂糖を吐き出した頃に。




「ようやくついたか!!」
「王子様!」
「――へ?」
 車から、(文字通り)飛び降りた王子に走りよってくる影、そして周りを囲む人々。
 王子の前にはさっき愛を誓えなかった王女、国王(父)、国の兵士。自分の護衛。
「おぉい!」
 王子は、怪盗を振り返った。
「私の依頼は、あなたを“あの式場”から逃がすことでしょう?」
 そのあとは知らないわよ。
「ご依頼は完了ですね」
 セズが国王から受けた依頼は、こうだった。

 「どうせ、“あの息子は、一度外に出なければわかるまい”ってことで、怪盗に盗ませてあげて、捕まえに行く。ので行き先を教えてくれ」

 さっき、車が走る前に白い鳥が一羽飛んでいったのを、王子は見ていなかった。


「では、これが報酬だ」
 あっさりと王子は兵士に捕まっている。何か叫んでいるが、当然のように無視されている。
 国王自ら報酬を手渡し。セズは中身の確認。――もちろんルナに見てもらうのも忘れない。
 一瞬、目を合わせあったルナとセズ。
「確かに。それでは失礼致します」
「ぁあ」
 さくさくと、ことは運ぶ。
 そして早々に、二人を乗せた車が走り出す。


「おいこらーーー!!!」
 王子の罵声が、空にこだました。





 車の中では、女が金貨の数を数えていた。
「ふふ、いいもうけ」
「そうだな」
 女が喜べば男も嬉しい――穏やかに女を見、なおかつ車を操縦している。

 って、それはそうだろう。
 ルナは王子からたっぷり報酬を踏んだくり、セズは国王からこれでもかと渡されている。


「次は、どうしようか?」
「町に行きたいわ〜〜」

 行きたい場所で生きること。それが二人の生き方だ。







「あら? これは?」
 国王と王子のいない城の中、王妃が見つけた予告状。

 “怪盗カルレナ、王家の宝を奪います”。





E n d


勢いで書いたものです。

Free Will