神の愛人 3
「神様」
「なんだ?」
「あの……娘は」
「七海がどうした」
「なぜ、天界に連れてきたのですか?」
「そう望んだからだ」
「ですが、神様がその願いを叶える必要など、なかったのでは!?」
 箱庭に穴を開けて、事実上ぶち壊しにした。残った欠片も、破片も、嘆きも、置き去りにした。
 そして連れてきた、人間の娘。疲れきった顔で世界を捨てた、そんな娘。
 今でこそ静かになったが、最初は誰もが反対した。天上に人間がいること。
「うるさい」
 側近が責めるように文句を言う。そして、部屋に帰れば。壁際でうずくまる影。
 泣いている時もあれば、涙をこらえている時もある。後悔しているのだろうか、帰りたいと考えるのだろうか。
 その世界はもう、無いと知っているのに。――だからか?
 抱きしめると抵抗して、殴りつけてくる。弱弱しい力に、痛みなど感じるはずもないのだが……
 なぜか苦しい。
 その涙を止める術を持ってはいても、教えはしない。
 ただ強く抱きしめて――満足するのだ。縋りつく先が自分しかいないことに。


「ねぇ」
 笑うか? 話しかけられることが嬉しいと思う自分がいることを。
「なんだ、足りないのか?」
 ただ、喜ばせたいと思った。
「余ってるけど」
「……そうか」
「うん。おいしいけど」
「それはよかった」
 ん? 何を凝視している?
 きょろきょろと辺りを見渡すも、いつも通りの食堂(七海に必要なので、早急に作らせた)に、誰の気配もない。
「どうした?」
 ……なぜに一歩引く。
「なんでもない」


 少しずつ、近づいているといいと思い。時折、はなれることを楽しんでいた。
 そんな余裕は最初だけだった。



「何をしている」
 不穏な空気に、気配がゆれていた。
「も、もうしわけありま」
 背を向けて、庇うように視界を邪魔しているのは自覚があった。
「ぇえっと?」
「神(わたし)のものに勝手に触れることは禁じておる」
 だから――
「覚悟はいいな、ルシフェシル」
「――」
 これで、また、彼らの中で反発心が生まれるのだろうか。そんなもの――
「神(あんた)なんか大っ嫌い!!!」
「七海!?」
 後ろから聞こえてきた叫び声に振り返ると、一瞬、目があった。どこか悲しそうに走り去る影に、腕を伸ばそうとして、届かなかった。


「神……」
「なんだ、セラフィラセ」
「申し訳ありません」
「なぜお前が謝る」
「いえ……今回のルシフェシルの軽率な行動、大変申し訳ありません」
「だから、お前になんの関係がある」
「神様。結界がゆらいでおります」


「神様」
「ルシフェシル。何をしにきた。お前には謹慎を」
「神様! 七海様を――」
「お前は、何がしたいんだ!」
 ひどく苛立っていた。いらだちを何かにぶつけるなどいつ以来だったのか、もうわからない。


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