カシャンっ!
 その音は、時の止まる音。

「「―――ぁ」」




【壊れた時計】




 もう動かない時計を見て、あなたはどうしますか?

「――はぁ」
 振り払われて、落とした。嫌な音と共に壊れた時計は、すぐに、修理に出した。

 ――なのに。

『おかしいんですよ。壊れた所も直して、もう異常はないはずなのに。……動かないんです』

 修理費は、かからなかった。

 でも、払いたかった。

 だって、この時計が動かない理由はきっと。私にあるから。


『ねぇ! これがよくない?』
『なんだよ、それ』
『だって、これならおそろいに――』

バシッ!

「――っ」
 振り払われた手と共にすり抜けた時計。落ちて、壊れて、止まった。

 もう動かないんだ。

 私と、彼との時間を刻む事はないから。

 だから止まってしまった。

「……ぁ……ふぅわああああーーー」
 泣き叫んでも、針は動かない。




「――いらっしゃいませ!」
 あんな事があったのに、今になって時計屋で働いている自分がいる。
 おそろいの腕時計を買って行くカップルを幾度、見送った事だろう。

 笑顔で。

 今では色違いや、形違いや、前よりもっともっと、選ぶ事ができる。

「すみませーん」
「はい!」
 時計に囲まれた毎日。
 そう、動く時計囲まれた毎日。


 あの腕時計は―――


「いってきまーす」
 一人暮らしなのに、答えが帰ってくるはずもないのに。
がちゃっ
 鍵を回して家を出る。今日も一日、頑張ろう。と、雲の見える空に誓った。
 その日は、あの日と同じ。同じ月の同じ日。あの時の止まった日――


カチッ
 部屋のタンスにしまいこまれた時計の針が時を刻む。

カチッかちっカチッかちっカチカチカチカチカッ
 それは、動き出した合図。

カチッ
 ―――時が。


からんからん――
「いらっしゃいませ!」
「こんにちは、腕時計を探して、っ!?」
「――っ!?」
「もう何見ているの!? あっちにあるじゃない!」
「ぁ、ああ」
「行こう! ねぇ! 絶対おそろいにしようね!」
「――そのために、来たんだ、ろう?」
「もっちろん!」
「――――」

カチッガっ!
 刻まれた時計の針は、数年分。

 そして、

 壊れた時計は、もう二度と動く事はなかった。



Free Will
2007.08.09