Short Selection 2010
+ about +
勢いで書き出すも、続かなくなった or 完結作品。超ショートからいろいろ。
i n d e x
おはよう

「おはようございます」
 その言葉を待っていたの。
「――姫?」
 だってあなたは、どう会っても私のものにはならないから。
「姫?」
 だからいつも、少しだけあなたを困らせてみるの。


「姫! 起きてください! いつまで寝ておられるのですか!」
 あなたが、来るまで。しつこい傍女があきらめるまで粘るのも、大変なの。
「まったく」
 呆れたように布団を持ち上げる。それもいつもの事。
ばさっ
「ぅわぁ!」
 可愛くないって? 知っているわ。
「起きていますね」
「そうだったかしら?」
「そうです。とにかく起きて――」
「おこして」
「自分で起きてください」
「おやすみ」
「ひめ!」
「いーーやー」
 ふとんを引っぺがそうとするのを、頑張って捕まえる。でもそれも一瞬。
「まったくもう」
 少しだけ笑って、抱き上げてくれる。それが好き。
 そのまま縁側に連れ出してくれる。例え曇りで暗くても、例え雨でじめじめしても。耐えられる。
「姫様!」
「衣絵(きぬえ)」
「本当にいつもいつも申し訳ありません。隻矢(せきや)様」
「ふーーん」
「姫。御行儀が悪いですよ」
「つーーん」
 私以外の女の人と話をしてる所にいるのは嫌い。
「おなかすいた! 一緒に食べよ!」
「………」
「姫様! 隻矢様はお忙しいのですよ!?」
「いーーやだぁー」
 足をばたつかせて、しっかりとしがみ付いた。布団よりも強く。手で握り締める。
 母と、父と御膳を共にしてもおいしくない。味がしない。あんな、生きるために、生かすために食べるだけの食事なら、いらない。
「一緒がいい!」
 だって、傍女は誰も一緒には食べてくれないの。
「―――仕方ありません」
「本当!」
「しかし、午後は琴の稽古に参加してもらいますよ」
「ぅ〜〜〜。隻矢もいるの?」
「……しかたありませんね……」

 いつも一緒だと思っていた。私の、ためにいてくれるんだって。私のものだって。



「姫様! 危ない!?」
ばしゃーーん!!
 本当はわかっていたの。あなたが来るって。だから、池に落ちたの。
 二人で水面に浮かぶと、くっくと笑っていた隻矢がついに噴出したの。
「――あなたと言う方は」
「――?」
 水に姿を浮かべてみれば、着物は着崩れてぼろぼろ。髪には藻が引っ付いていたわ。
「〜〜〜!!!」
 起こって赤くなった私を見て、大笑いする隻矢に容赦なく水をかける。―――今は、初夏。

 私よりも“大人”なあなたの心を、常に私に引き付けておきたくて。
 ずっと私だけを見てほしくて。
 いつも、傍女を困らせた。

 どこにも行ってほしくなくて。
 会えないと苦しくて、会えても苦しくて。どうにかなりそうだった。

 どこに行っても可愛いと子ども扱い。大人の女の人を見れば、ただ悲しくて癇癪(かんしゃく)を起こした。

 だって、騒いでいればきてくれるんだもの。

 出かけるといった日にはいつ帰るのか問い詰めて、帰るころにはお城の高い所で下を見下ろすの。
 一番に、帰ってくるのが見えるように。


「隻矢!」
「姫様!?」
 馬から下りたあなたに飛びこんで行って、矢継ぎ早に質問をするの。そうすると部屋に連れて行ってくれるの。――手のぬくもりが伝わってくるの。
 忙しいのに、外に出たときはいつも唐菓子や織物や髪飾り。そんなもの、親にせがめばもっともっと買ってもらえたけど。

 私には、これ以上価値のあるものなんてなかった。

 あなたは、私を愛してくれる?
 

このページのtopへ
(C)kaya rinrei All rights reserved.