Short Selection 2010
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勢いで書き出すも、続かなくなった or 完結作品。超ショートからいろいろ
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パーピュア

 蒼の歌姫と緋色の王。


『国がどこにあるのか、忘れてはいけないよ――』


 それは、父がよく、言っていた言葉だった。

 ――だから


 例え、この身が血に染まろうと、私は忘れない。



「ほかに土産は?」
「……ご不満ですか」
「不満だ。蒼の歌姫はどうした」
「ご期待には、添えないかと」
「どういう意味だ」
「いえ――連れて来い」



 だれが、罵ろうと、
 だれに、罵られようと、
 私は


 ざわりと、空気が震えた。
 目が、はなせない。

 笑って、いるのだ。
 無残に父と兄弟と母を殺され、姉妹と引き裂かれた姫が。その目。
 敵となる敵国の王のもと、謁見室で。
 静かに、足を運んできた娘。
 微笑んだのだ。
 まるで春咲きの花が、ほころぶように。




「お前」
「はい」
「……名は?」
「――知りませんか?」
 一瞬、皮肉とも取れる言葉が返される。それにいらだちを覚える間もなく。
「シアン」
 紡がれた名。変わらず、微笑んでいるというのに――どこか、悲しげだった。
 それを見て、人間を相手にしているのだと思い出した。
 そして、その一瞬は、本当に一瞬だった。
「私は、シアン・エレ・レンラーレ」
「……」
 王が、黙った。沈黙が降りる。本当に、誰も何も言わないので、はてと、シアンが首を傾げる。

しーん

「アレース」
「はい」
「連れて行け」
「……はい」
「こい」
「はい」
 絞り出すような国王の答えた、側近で軍師。彼が、首を刈ったのだ。――父と、兄と、弟の。
 そして母は――どこにいったのだろう。
 残された女に接する態度が、優しいものだとは思えない。

 私は、どうなるのだろう。
 あの赤く緋色の目をした王の国で、生きる理由なんて、ないのに。
 

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