Shinlee
『彼の国王夫妻観察日記』

 冷徹王と呼ばれた自分の国王が、妻を娶るといった時の大臣の狂気的な喜びようは記憶に新しい。
 さらに言うなら、その妻にしたい娘と言うのが異国の娘でしかもまだ二十歳にもならないと聞いて、大臣達はさらに狂喜乱舞した。
 そんな、異常な光景をあっさりと無視して、王は娘を連れてきた。――多少。多少? 強引だったのはこの際無視した。そうでもしなきゃ、この国がつぶれる。
 だいたい、誰が好き好んで冷徹王に嫁ぐというのだろうか。
 さて強引に連れてこられた娘は、なんてことない。ランドイル城内であった娘だ。そう、あの王に向かってきた娘だ。あの王に突撃した(本人の意思ではない)あげく頬に触れるなど、そんな命知らずこの国にはいない。ある意味では希少な存在かもしれない。

 そして、その姫君がこの城にやってきて数日。

 この城は、その姫君のために回されている。起床時間。食事。その他すべて。王を起こす起床時間に勤めていた侍女はほぼすべて姫の身の回りの世話に回りたいと言い出して、今ではそっちのローテーションを組むのが大変だ。
 食事も、姫の起床時間に合わせて作られる。こちらの味に慣れない姫のために、料理長はスパイス類を少しずつ増やすことにしている。毎日、おいしそうに食事を食べる姫を見るのは至福の時だ。
 ちなみに自分は姫の相手を勤めている。まぁ護衛をかねて。これも王の中でかなりの葛藤の種だったらしい。
 ちなみに自分は嫁いだ姉が時折家を出てきて、無理やり娘を押し付けて遊びに行ってしまうことが多々ある。
 まぁそんなわけで、小さい子供の相手はなれている。泣いて癇癪を起こしたときも、ダダをこねた時も。しかし、姫はあまりわがままを言わない。今度姪が来た時は姫に会わせようと思う。そうすれば自分の疲労は半減する、はずだと思う。
 姉は定期的に家出をするので、遠からず近い未来のことになるだろう。
 ちなみに、王は子供の相手などしたことはない。と言うわけで、何かあると姫はすぐに自分のところにくる。
 例えば、あれとって〜とか。そんなレベルでも。
 しかし、問題なのは王の嫉妬だ。視線だ。一度姫が、私嫌われているの? と可愛い顔に涙を溜めて聞いてきたことがある。その可憐な感じ。一瞬、ここは王を裏切ってそうですよと言ってもいいかなと悪魔が囁いた。


 さて侍女達は、姫に自分達を“お姉さんと”呼ばせている。あの嫁ぎ送れども、自分の歳を棚に上げやがって……と、口が裂けても言えない。
 しかも、大臣にいたってはおじいちゃんだ。孫だ孫。
 なんたって、あの姫はかわいいから。
 だけど、さすがに未来の王妃に自分達を“お姉ちゃん”とか“おにいちゃん”とか“お爺ちゃんとか”呼ばせているのはおかしいだろうという……
 だかしかし、姫はかわいい。そう自分達を呼ばせたくなるのも頷ける。
 駄菓子菓子……と、真剣円卓を組んでみなで集まって悩んでいた。
 と、そこへやってきた影。ぺこりとお辞儀をして口を開く。
「こんにちはお姉さま、お兄様。おじいちゃん!」
 元気に笑顔で挨拶をして歩き去る姫。その姿を見送る面々。姫の影が城の中に消えて、すっかりお茶が冷め切った頃、誰かが言った。
「このままでいんじゃないっすか?」
 そして青空の下の密談は終わった。


 さて、こういうのもなんだが、王と姫の寝室は別だ。
 ちなみにそこの事を不満に思っているのは無論王だ。だが、侍女の冷たい視線と言う反撃にあった王はしぶしぶ納得した。
 あと五年もすれば……という呟きは聞こえなかったことにしておく。


〜 Fin 〜

Novels
2008.06.16