目の前に娘が降ってきた時、灰色の世界は色を持って、美しさを教えてくれた。
 だけど、守りきれなかった。最後に裏ぎったのは自分だった。
 静かに、色を讃える微笑みを残して彼女の腕を突き放した。
 心に残る痛みは、いつか癒えると信じていたから。


「陛下?」
 悪夢とは言えずとも、自身の行動を笑うかのように頭の中で道化師が笑っている。そんな日の眠りは妨げられ、今では妻となった幼なじみの声が不快だ。
「なんでもない。自分の部屋で寝たらどうだ」
「いえ……」
 隣り合った部屋の真ん中にある寝室で寝たのは、二番目の子がいると知ったその日で最後だった。
 人の出入りを制限した自分の寝室。どこで聞き付けたのか、兵士の命令をも虚しく、彼女はここにいる。
 当たり前だ。あの娘をおいて選ばれたのだから。
「出ていけ。風邪でも引いたらどうする」
「いえ、ユーキもカーラも大きくなりました。もう母が恋しい子供ではありません。わたくしの役目は……終わったのでしょう」
 自分の行動も、行動も、扱いもすべて――ひとつの道筋のものだと知っているのだ。だが言わない。自分の前では泣き言ひとつ漏らさない。
 美徳だと思う。やはりこの幼なじみでよかったのだと。
 間違えてなど、いない。だがこの痛みはどうだ?
 傷は癒えるどころか、無邪気な子供の顔が歪んで見える。
 なんて名を付けたのだろう。

『子供の名前は、ユウキがいいな』
『ユーキ?』
 返した答えに、少しだけ戸惑った顔をされた。それは、『ユウカだよ』と言い直す時と、同じ顔だった。

 この茶番に、誰が付き合うのだろう。


モドル